「直美(ちょくび)」が急増中!美容医療に転科する前に知っておくべきリアルな現実
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「美容医療って、どうなんでしょう?」初期研修を終えたばかりの若手医師から、こんな相談を受けることが増えました。かつて、美容医療は「形成外科や一般外科で経験を積んだ後に進む道」でした。
しかし最近では、初期研修を終えたばかりの医師が直接美容医療に進むケースが急増。この流れを指して「直美(ちょくび)」と呼ぶこともあります。
美容医療は、高収入でワークライフバランスも取りやすく、患者様の満足度が高い魅力的な分野です。でも、その一方で、「この選択で後悔しないか?」「やっていけるのか?」と不安に思う人も少なくありません。
今回は、「直美」が増えている背景、医師としての葛藤、そして美容医療に転科する上でおさえておきたいポイントについて、転職アドバイザーの視点でお話しします。
目次
「直美」が増えている背景|美容医療に流れる若手医師の本音とは?

近年、研修医終了後にそのまま美容医療に進む若手医師、「直美(ちょくび)」が急増しています。かつては一般診療科(内科、外科、小児科など)に進むのが一般的でしたが、なぜ美容医療を選ぶ若手医師が増えているのでしょうか?
その背景には、医師としての働き方や収入面、やりがいに対する価値観の変化があります。ここでは、若手医師が美容医療に流れる理由を具体的に掘り下げて解説します。
病棟の労働環境の過酷さ|一般診療科では「続けられない」現実
一般診療科の労働環境は、長時間労働や当直、オンコール対応が避けられません。医師不足による業務の過重負担も深刻で、勤務状況が改善されないまま、体力的・精神的に限界を迎えるケースも少なくありません。
当直やオンコールによる不規則な勤務
救急対応がある診療科では、当直明けもそのまま通常勤務が続くことが一般的。睡眠不足が慢性化し、体調を崩す医師も多い。精神的な負担が大きい
重症な患者様への対応や、命に関わる治療でミスが許されないプレッシャーにより、メンタルを崩す医師もいる。
こうした過酷な勤務状況から「医師を続けられない」と感じる若手医師が増えており、ワークライフバランスが良く、高収入が期待できる美容医療への転科を考えるきっかけとなっています。
収入面での魅力|美容医療は高収入が期待できる
美容医療の大きな魅力の一つが「収入の高さ」です。
保険診療は診療報酬が決まっている
保険診療の場合、収益は診療報酬制度に基づいているため、治療件数を増やしても収益アップには限界がある。美容医療は自由診療で単価が高い
美容医療では診療報酬に縛られず、施術の種類や価格を自由に決められるため、1回の施術で高収入が得られる可能性が高い。成果報酬型の報酬制度がある
クリニックによっては、施術の売上や指名件数に応じてインセンティブが支給されるため、頑張りがそのまま収入に反映されやすい。
特に、美容外科の施術(豊胸や脂肪吸引など)は1回あたりの施術単価が高く、手技が評価されればインセンティブが加算されるケースも多いため、年収2,000万〜5,000万円に達する医師も珍しくありません。
美容医療のワークライフバランスの良さ
美容医療では、一般診療科に比べて勤務体系が整っており、休日や勤務時間が安定しています。
当直・オンコールがない
美容医療は緊急性のある治療が少ないため、オンコールや夜間対応がほとんど発生しない。完全予約制で勤務時間が管理しやすい
完全予約制のため、無理な診療スケジュールが発生しにくく、効率的な働き方が可能。休日・有給休暇が取得しやすい
保険診療では人員不足により休みが取りにくいことが多いが、美容クリニックでは十分な人員配置がされているため、休みを取得しやすい職場が多い。
「過酷な勤務から解放されて、自分の時間を確保したい」という理由で美容医療に進む若手医師が多くなっています。
患者様の「満足度」が医師のやりがいに直結
一般診療科では、患者様の満足度よりも治療結果や診療報酬が評価に影響しますが、美容医療では患者様の満足度がダイレクトに反映されます。
美容医療は「0をプラスにする医療」
保険診療は「病気を治して0に戻す」ことが目的だが、二重整形や脂肪吸引をはじめとした美容医療の施術の多くは「0の状態をさらにプラスにする」ことを目指す。患者様の笑顔が直接的なやりがいにつながる
美容施術の成功で外見が改善し、患者様が自信を持てるようになることで医師自身もやりがいを感じやすい。患者様満足度がリピートに直結
患者様が満足すれば、次の施術や他の施術も任せてくれる可能性が高く、安定した収入にもつながる。
「目に見える結果を出しやすい」という点が、医師としてのやりがいを強く感じる要因になっています。
美容医療への世間の認識の変化
かつて美容医療は「特別な人が受けるもの」という認識が強く、医師の間でも「美容医療は医療ではない」と否定的な見方がありました。
しかし、現在では美容医療は「身だしなみの一部」として認識されるようになり、医師自身も美容医療を選択肢として考えるようになっています。
- 美容クリニックへの就職希望者の増加
- 医学生や研修医向けの美容医療セミナーの増加
- 美容施術を受けることへの抵抗感の低下
社会的な認識の変化が、美容医療に進む「直美」が増えている背景となっています。
「過酷な勤務から解放されたい」「高収入を得たい」「やりがいを感じたい」
こうした理由から、美容医療に進む「直美」が増えているのです。
安易に直美を選ぶのは危険?厚労省が「医師偏在問題」にメスを入れ始めた
美容医療に転科する若手医師が増加したことも要因の一つとして、厚生労働省は「医師偏在問題」に対する対策を本格化しつつあります。医師偏在問題とは、特定の診療科や地域に医師が集中し、不足している診療科や医療過疎地域で医師不足が深刻化している状況を指します。
特に、美容医療に転科する医師が増えることで、他の診療科で医師不足が加速していることが問題視されています。
厚生労働省は美容クリニック開業に際して、5年以上の保険診療経験を必須とする案を検討するなど(2024年時点)、医師偏在問題に対して具体的な対策を進めています。
美容医療への転科が今後難しくなる可能性
厚労省のこうした取り組みにより、美容医療への転科は今後、より慎重な判断が求められる可能性があります。美容医療の分野に人材が集中しすぎることで、医療全体のバランスが崩れることを防ぐために、転科に対して一定の制限がかけられることも考えられます。
これから美容医療への転科を検討している場合は、単に美容医療に魅力を感じて飛び込むのではなく、一般診療の経験やスキルを積みながら、長期的なキャリアプランを設計することが重要になります。厚労省の動きや医師偏在是正の影響を見極めた上で、自分に合った診療科選びをする必要があるでしょう。
医師としての葛藤|美容医療の医師は医師と言えるのか?

美容医療に転科した医師の多くが感じるのが、「本当にこれで良かったのか?」という葛藤です。高収入やワークライフバランスの改善といった明確なメリットがある一方で、美容医療特有の課題や、医師としての自分の在り方に対する不安がつきまといます。
美容医療の現場に進むことで、医師としてのアイデンティティが揺らぐことも少なくありません。ここでは、美容医療に進んだ医師が感じる代表的な葛藤や不安を掘り下げて解説します。
キャリアの不安感|美容医療での経験はキャリアとして認められるのか?
美容医療は自由診療であり、一般診療科とは異なる独自のキャリアパスになります。そのため、美容医療に進んだ場合に「医師としてのキャリアが認められるのか?」という不安を抱える医師は少なくありません。
専門医資格の取得や更新が困難になる可能性
美容医療では専門医資格が必須ではないため、専門医資格を維持・更新するための症例数や研修機会が不足する可能性がある。美容医療でのキャリアは保険診療の現場で評価されにくい
美容医療で積んだ経験やスキルが、内科や外科など一般診療科に戻った際に評価されにくいケースがある。医局への復帰が難しくなる可能性
美容医療に転科後、医局を離れるケースも多く、再び保険診療に戻りたいと考えたときに復帰が難しくなる可能性がある。
美容医療で成功しなければ「医師としてのキャリアを失う」不安感もあるため、転科に踏み切れない医師も多いのです。
医師としての技術が衰える?|技量が劣ることへの不安
美容医療は生命に直接関わる治療ではなく、患者様の健康状態を維持・改善することが目的ではありません。
そのため、外科や内科などの保険診療に比べて医師としての診療スキルが低下するのでは、という不安を抱く医師も多くいます。
救急対応や重症の患者様への対応スキルが低下する可能性
美容医療では緊急対応や重症の患者様の治療機会がなくなるため、一般的な医療現場で必要なスキルが衰える可能性がある。疾患を見極める診断能力の低下
美容医療では診断というよりは施術が中心になるため、診察スキルや診断能力が低下する懸念がある。臨床経験が不足することで将来的なキャリアに不利になる可能性
美容医療での経験は他の診療科で求められるスキルと異なるため、将来的に一般診療に戻りたいと考えたときに不利になる可能性がある。
「美容医療で収入は得られても、医師としての技量が衰えてしまうのでは?」という不安が、美容医療への転科をためらう理由になっています。
ブランディングの難しさ|指名が取れなければ生き残れない
美容医療の現場では、医師のスキルだけでなく「ブランディング」や「集客力」も生き残りの鍵となります。単に施術が上手いだけでは競争に勝てず、医師として指名を獲得できなければ結果的にキャリアの安定を失う可能性があります。
SNSや口コミでの評価が重要になる
患者様は医師の技量やクリニックの実績だけでなく、SNSや口コミでの評価を重視するため、SNS発信や口コミ戦略が重要。ブランディングが成功しなければ指名が取れない
施術スキルが高くても、マーケティングやブランディングに失敗すれば指名が取れず、収入が安定しない。新規参入医師の増加による競争激化
美容医療への転科が増えることで競争が激化し、同じ施術を提供する医師が増えるため、独自の強みや差別化が求められる。特に美容外科は医師の腕を吟味して予約する患者様が多いため、社内のマーケティング部や広告代理店に依存せず、自分の指名は自分で獲得する気概がなければ、昨今の熾烈な競争に負けずに生き残ることはまず難しいでしょう。
美容外科や美容皮膚科で指名予約を取るには、施術スキルに加えてマーケティングやSNS戦略、患者様へのカウンセリングスキルなどが必要となります。これらのスキルが不足していると、競争に勝ち残るのは難しくなります。
「医師としてのやりがい」を見失う不安
一般診療科では、病気やケガを治療し患者様を救うことが医師としてのやりがいに直結します。
一方、美容医療は見た目を改善することで患者様の満足度を高めることが目的であるため、「これが本当に医療と言えるのか?」と疑問を感じる医師も少なくありません。
美容医療は自由診療=経済活動と割り切るべき
施術結果が患者様の満足度に直結し、結果が数字で評価されるため、医療というよりビジネスに近い側面がある。患者様満足度=施術結果への責任が重くなる
患者様の期待値が高いため、結果が期待に達しなかった場合にトラブルにつながるケースもある。やりがいが「患者様を救うこと」から「患者様を満足させること」へシフト
本来の「医師としての役割」が美容医療の現場では変わるため、医師としての在り方に疑問を感じるケースがある。
「美容医療の医師は本当に“医師”と言えるのか?」
この問いに自分なりの答えを見つけることが、美容医療でのキャリアを確立する上で重要になるのです。
美容医療に進むことで得られる高収入やワークライフバランスの改善は魅力的ですが、医師としてのアイデンティティやキャリアの不安は常に付きまといます。
美容医療に進むことが「医師としてのキャリアの終わり」にならないためにも、転科前に自分が本当に求める医師像を明確にしておくことが重要です。
それでも美容医療に進むならどうすればいいのか?
美容医療に進む医師が増えている中で、「直美」として美容医療に転科を検討している医師には、次のようなステップを踏むと良いでしょう。
美容医療業界は他の医療分野とは異なる特性を持ち、キャリアの築き方やスキルの習得方法にも工夫が必要です。
さらに、厚生労働省が美容医療業界への規制強化に向けた動きを見せ始めており、転科を希望する医師は規制が本格化する前に迅速にアクションを起こすことが重要です。
情報収集と業界理解の徹底
美容医療業界への転科を考える上で、まず最初に業界の実態をしっかりと理解することが重要です。自由診療である美容医療は、保険診療との違いや収益構造、労働環境など、独自の特徴を持っています。そのため、業界の動向を正しく把握しておくことが、転科後の成功に繋がります。
また、美容医療の分野は美容外科と美容皮膚科に大きく分かれます。これらの分野をどちらに強みを持つかによって、求人選びやキャリアパス、さらにはセルフブランディングや集客方法にも大きな違いが生じます。
美容外科であれば、外科手技に特化したスキルをアピールし、施術の腕前を前面に出すセルフブランディングが求められます。
一方、美容皮膚科では、患者様との信頼関係を築くことが重要となり、治療後のアフターケアやカスタマイズされた治療提案に力を入れる必要があります。
- 美容医療業界の各分野(美容外科・美容皮膚科)について、論文や学会などで最新の専門情報を積極的に取り入れる。
- 業界セミナーや勉強会に参加し、実際に美容医療に携わる医師と交流する。
- 自分がどちらの分野で活躍したいのかを見定め、その分野に合わせた求人を選ぶ。
転職エージェントの活用で適切な情報を得る
美容医療業界への転科を目指す場合、転職エージェントの活用は非常に重要です。特に、美容医療に特化した転職エージェントは、業界の動向や各クリニックの採用課題について深い理解を持っているため、非常に有益な情報源となります。
さらに、美容外科や美容皮膚科に求められるスキルや、今後の業界トレンドに基づいたアドバイスを提供できます。
また、エージェントは各クリニックの求める医師像や、採用における細かい条件についても把握しているため、転職活動を行う際には、単に求人情報を得るだけでなく、キャリアプランを立てるうえでも大いに役立ちます。
転職エージェントを活用することで、より自分に合ったクリニックの求人を見つけるだけでなく、業界の動向を踏まえたアドバイスを受けることができるため、早い段階で自分のキャリアを築く方向性を見極めることができます。
- 美容医療専門の転職エージェントに登録し、業界のトレンドや今後求められる医師人材に関するアドバイスを受ける。
- 転職エージェントに自分の希望条件やキャリアプランをしっかりと伝え、的確な求人情報を提供してもらう。
- クリニックの採用状況や課題について詳細な情報を得て、自分に適した職場を選ぶ。
- ただの求人探しではなく、転職エージェントをキャリアプランの相談先として活用し、長期的なキャリアの方向性を明確にする。
基礎的な診療スキルの向上
美容医療は自由診療であるため、患者様に提供するサービスが直接的に価値に結びつきます。
そのため、診療スキルだけでなく、患者様との信頼関係を築くためのカウンセリングスキルが非常に重要です。患者様にプラスの価値を与えるカウンセリングを行うことで、施術後の満足度が高まり、リピートしていただく患者様の獲得につながります。
特に、美容医療では患者様が見た目に対して不安や悩みを抱えていることが多いため、その気持ちに寄り添い、丁寧に説明することが求められます。
小馬鹿にしたり冷遇するような態度では、患者様の信頼を得ることは難しく、結果的にリピートを獲得することができません。
- 美容医療におけるカウンセリングの技術を磨くため、専門的なトレーニングを受ける。
- 患者様の不安や希望をしっかりと聞き、共感を示すことで信頼関係を築く。
- 施術の効果やリスクを分かりやすく説明し、患者様が安心して治療を受けられる環境を作る。
- カウンセリングにおいて、患者様のプライバシーや感情に配慮し、適切な対応を心がける。
患者様との信頼関係を築くためには、カウンセリングスキルが非常に重要であり、これを向上させることが美容医療の現場で成功するための鍵となります。
キャリアプランの明確化
美容医療業界においては、専門医資格が不要な場合もありますが、一定の経験や実績が求められるため、転科後のキャリアプランをしっかりと描いておくことが重要です。
自分が進むべき方向を見定め、どの分野で活躍したいかを決めることで、明確な目標を持ちながらスキルを磨くことができます。
- 美容医療分野で活躍するための長期的なキャリアプランを作成する。
- どの分野に特化するかを決め、その分野で必要な専門性を深める。
- 開業を視野に入れた場合は、経営に関するスキルも並行して学ぶ。
まとめ ─自分の未来は、自分次第!
美容医療への転科を希望する医師は、まずは情報収集をしっかり行うことが重要です。
各クリニックの採用計画や、業界の最新動向を具体的に知っている転職エージェントに相談することで、転科後のキャリアプランをより現実的に練ることができます。
転職活動を開始する際には、自分の希望する診療科や職場環境に合ったクリニックを見極め、準備を整えることが求められます。美容医療業界は変化が早いため、早めの行動がキャリアの成功に繋がります。